「強度は健全材と同程度」 発災4カ月経過の大規模林野火災 県林業技術セが被災木調査 今後の保水・防虫機能低下に懸念も

▲ 被災木の強度調査に関する最終報告が示された現地検討会

 県産木材供給連絡会議主催の大船渡市大規模林野火災復旧に向けた被災木利用現地検討会が、16日に猪川町の県大船渡地区合同庁舎などで開かれた。県林業技術センターによる被災木の強度調査に関する最終報告では、発災から4カ月が経過した被災木による丸太は健全材と同程度の強度性能で、板材も集成材に利用可能なレベルだった。一方、全体が被災した樹木は樹皮厚が薄く、今後の保水、防虫抗菌などの機能低下に懸念がある。焼損木の早期利用を強調する発表も行われた。(佐藤 壮)


 同会議は県産木材の需給に関する情報共有を目的に、東北森林管理局盛岡森林管理署や県国有林材生産協同組合連合会、県森林組合連合会、ノースジャパン素材流通協同組合、県などで構成。大規模林野火災に伴う現地検討会は7月に続く開催で、県や市、林業関係者ら約60人が出席した。
 冒頭、県農林水産部林業振興課の高橋幸司総括課長が「被災の程度に応じた利用には、科学的根拠に基づく取り組みが必要。長期的視点で取り組む必要があるが、変化を予測した上での迅速な対応が求められている。被災木の利用に向け、きたんのない意見を」と述べた。
 林野火災被災木の需要喚起に向けた取り組みに続き、強度試験の最終報告は県林業技術センターの谷内博規研究部長が説明。スギ被害木の強度調査を進めてきた流れを示し、丸太や板材の強度などを解説した。
 被害木の建築材料利用は、森林再生で伐採や再造林を進める所有者にとって経済的メリットがある。半面、一般的に材温度が180度以上に加熱されると強度が低下するといい、熱による材質劣化が懸念されている。
 調査では、発災から4カ月が経過した7月に、三陸町綾里の田浜、小路両地域の市有林でスギの被災木を確保した。焼損度は▽「低」(根元から1㍍以下)▽「中」(同5㍍以下)▽「激」(幹全面の焼損)──の3種類に分け、丸太は強度測定、板材はたわみにくさや曲げ、引っ張りに対する強度を調べた。
 焼損の多くは樹皮の炭化のみで、製材工程では加工における焼損影響は観察されず、材面も健全材と変わらなかった。一方で「激」の樹皮厚は8割が2㍉以下と薄く、保水や防虫抗菌などの機能低下が懸念される状態となっていた。
 丸太の強度性能は健全材と遜色なく、板材(ラミナ)のたわみにくさも健全材と変わらない数値だった。こうしたことから「強度性能は、健全材と遜色ない」と総括する。
 報告後、谷内研究部長は「夏を過ぎた後の変化も予想され、1年が経過した程度での強度調査もやりたいと考えている。保水・抗菌機能が低下すれば、朽ちていくことが予想される。早めの木材利用がいいということになる」と話した。
 現地検討会では、京都大学防災研究所水資源環境研究センターの峠嘉哉特定准教授が、8年前に発生した釜石市尾崎半島林野火災後の変遷を解説。幹全体が被災した高焼損域の樹木は短期間で枯死するだけでなく、中焼損域の樹木も、構造的に弱く危険木になる傾向に触れ「枯死に向かう前に利用可能な樹木を利用して、復興させていくことが重要」などと述べた。