尾崎半島(釜石)に学ぶ林野火災の将来 被災8年 未伐採地で危険木化 大船渡の復旧・復興への教訓に
令和7年12月19日付 1面
大船渡市大規模林野火災からの山林再生に向け、8年前の平成29年5月に釜石市の尾崎半島で発生した林野火災の教訓を生かした施策への関心が高まっている。山林約413㌶が焼失し、市や釜石地方森林組合が中心となって220㌶で再造林を実施。一方、未伐採のまま残る被災森林は、樹木のほとんどが枯死し、倒木が見られ危険な状態と化している。釜石の現状を知る専門家は、大船渡での積極的な伐採・再造林に加え、定期巡視の必要性などを挙げる。(佐藤 壮)
県産木材供給連絡会議が主催し、16日に行われた大規模林野火災の復旧に向けた被災木利用現地検討会。現地研修は、釜石市平田の尾崎白浜漁港から東側に位置する民有林の未伐採地で行われた。
幹の上部に葉や枝がなく、樹皮がはげ落ちた立木が、弱い風でも不気味に揺れる。周辺の斜面には、根部分から倒れた幹が散らばっていた。県の担当者は「いつ倒木するか分からない。木のそばに行かないで」と注意を呼びかけた。
釜石地方森林組合の高橋幸男参事は「この状態での伐採は非常に危険で、チェーンソーの刃を入れてすぐ折れる可能性があり、安全確保などでコストはかかるだろう。残材の処理もある。所有者が伐採を希望するのであれば何とかしたいが、費用確保が問題」と話す。
火災時の焼損は幹の上部には完全に到達しておらず、高さ10㍍程度まで焦げ跡が残る木が多い。年月を重ねる中で立ち枯れや倒木が進行し、倒れ切らずに他の木に覆い被さる「かかり木」も見られ、日増しに危険度が高まっている。視察した一人は「この光景を、大船渡の人たちにもっと見てほしい」と語った。
長年調査を続ける京都大学防災研究所水資源環境研究センターの峠嘉哉特定准教授は「焼損区分で『大』から『激』にあたる大船渡市の区域における、8年後の将来の形ではないか」と紹介した。釜石と大船渡の延焼区域はスギ林が多く、樹冠火が発生したことで、焼損度の分布が幅広い。加えて、地形が急峻といった特徴も類似している。
幹全体が被災した高焼損域の樹木は短期間で枯死する。さらに、中焼損域の樹木も構造的に弱くなるとされ、早期に被災木を伐採・利用する復興施策を強調。山林の変化を衛星画像のみならず、地上レベルでも記録に残し、変化をとらえる重要性を掲げる。
峠特定准教授は「大船渡でも高い焼損度の場所は、月日がたてば現場で『ギー、ギー』というようなきしむ音が出て、恐怖感を覚えるようになると思う。被災程度が『激』ではない木も、葉は残っているように見えても焼損が大きい部分があることで構造体としては弱くなり、危険木になってくる。それが一帯にあることで、将来的に『山に入ること自体が危険』に変わっていく」と指摘する。
大船渡市大規模林野火災による森林被害面積は3370㌶。このうち、人工林計1709㌶の所有者577個人・団体に対して9~10月に意向調査を行ったところ、国の激甚災害指定に伴う森林災害復旧事業を活用した伐採、再造林を希望する面積は計784㌶。「今後の管理が困難」といった理由で希望しない面積は、計686㌶に上る。
被災した山林の復旧を巡っては、18日の市議会一般質問でも論戦が交わされた。宮﨑和貴議員(新政会)は「『希望しない』との意向や、未回答を合わせた計920㌶余りについての検討も考えなければならない。山への対応が異なる『虫食い状態』になることで、土砂災害の発生や、復旧事業の作業自体も難しくなるのではないか」との懸念を示した。
活用を希望しないと回答した所有者や未回答者への対応について、山岸健悦郎農林水産部長は「義援金を被災森林の復旧に活用することなどの発信を通じて、意欲喚起に努めたい」と答弁。意向調査で示された回答から考えが変更した場合における柔軟な対応を国に求める動きにも言及した。






