祈り 静かに 大震災15年 「時間は解決しない」 誕生日が長男夫婦失った日に 高橋仁さん、妻・和枝さんと墓参り

▲ 「ここで待っている」。行方不明のままの長男夫婦に思いを寄せ、静かに手を合わせる高橋さん夫妻

 東日本大震災の発生から、11日で15年が経過した。気仙両市では災害関連死を含め2029人が亡くなり、今も280人の行方が分かっていない。陸前高田市高田町の高橋仁さん(79)・和枝さん(73)夫妻は同日、墓参りに向かい、行方不明のままの長男夫婦に祈りをささげた。この日が誕生日の仁さんは、毎年巡ってくる記念日が最もつらい日に変わった。和枝さんは最近夢で見た愛息の笑顔が忘れられない。「時間は解決しない」「会いたい」。やり切れない思いを抱きながら、「帰る場所はここだよ」と静かに手を合わせた。(高橋 信)

 

 震災発生日、毎月11日の月命日、お盆、春と秋の彼岸。2人が年15回、欠かしたことのない墓参り。11日も朝一番に米崎町にある菩提寺の普門寺を訪ねた。
 「よし、これで大丈夫だ」。きれいに墓を掃除したあと、2人そろって手を合わせた。
 高橋さん夫妻は、陸前高田市職員の長男・和弥さん(享年37)、同じく市職員で、和弥さんの妻・裕美子さん(同33)を亡くした。
 和弥さんは、仁さんの退職と64回目の誕生日を祝おうと、2世帯4人での温泉旅行を企画していた。出発前日、海が突然牙をむき、津波はまちと一緒に高橋さん夫妻のかけがえのない家族を奪った。裕美子さんのおなかには新しい命が宿っていたと、裕美子さんの実家から聞いていた。「いつか伝えてくれるだろう」とうれしい報告を待っている時期でもあった。
 和枝さんは、避難所で和弥さんと背格好や髪型が似ている人を、つい呼び止めてしまうことがあった。「どこにいるの」。必死に市内外の遺体安置所を回った。
 「とても外になんて出られない」。和枝さんはしばらくの間、家に閉じこもった。仁さんは大好きだった晩酌をピタリとやめ、2人の間から会話はなくなった。
 「このままではいけない」。わらにもすがる思いで、平成30年、1匹の黒柴犬を迎え入れた。メスの「さくら」ちゃん。いつもけなげな愛犬に励まされてきた。
 2人が主宰する三味線教室の教え子たちの成長も心の支えとなった。高台に再建した自宅の近所に住む小学生らからも慕われ、仁さんは「そうした子どもたちの存在がなかったらと思うと、今の生活は想像もつかない」と語る。
 和枝さんは、2月に見た夢を今も鮮明に覚えている。自宅にいる和弥さんが携帯電話を手に、満面の笑みを浮かべて楽しそうに話していた。「顔も、雰囲気もまったく当時のまま」。これまでも何度か夢の中で会えたが、いつも無表情だった。
 「『15年たっても帰られないけど、そっちで頑張って』という意味なのかな」。久しぶりに明るい笑顔を見られて、ほんの少しだけ救われる思いがした。
 しかし、時間の経過が心の傷を癒やす「時薬」は、震災においては存在しないと身をもって実感する。仁さんは毎年、誕生日が近づくと現れる胸のざわつきに苦しめられる。「子が親より先に逝くなんて、順番が全く逆だもんな」。
 誰にでも優しく、明るく接する和枝さんも、震災の話になると表情が曇る。無念さは消えず、2人の気持ちのやり場は、15年たっても見つからない。「これからも楽にはならないだろう。でも思い続ける。『ここで待っているからね。帰る場所はここだよ』と祈り続ける」と語る。