大震災15年/History3.11 あの日から⑤ 「潮風…」が変えた故郷の見え方 みちのくトレイルクラブ・坂本麻由子さん(三陸町越喜来)
令和8年3月13日付 1面
「何もない」と思い込み、早く出て行きたかった地元は、大人になった今では誇れる場所になった。わずらわしかった地域の〝つながり〟は、大切なものだったと気付いた──。
青森県八戸市と福島県相馬市をつなぐ全長約1000㌔の長距離自然歩道「みちのく潮風トレイル」を運営する認定NPO法人みちのくトレイルクラブの地域支部事務局を務める坂本麻由子さん(49)は、東日本大震災を経て、地域への思いが大きく変わった。
「地元はどこに行っても知り合いだらけ。自分のことを知っている人がいない場所で、リスタートしたかった」。大船渡高校を卒業後に茨城県の大学に進み、そのまま旅行会社に就職した。
震災発生後の平成27年に2人の子どもを連れて帰郷。同年5月に就いた環境省大船渡自然保護官事務所保護管補佐官の仕事で出合ったのが、同省による「グリーン復興プロジェクト」の一環として、震災で被害を受けた東北沿岸部の復興を後押しするために整備を進めた「みちのく潮風トレイル」だった。
同トレイルは、太平洋沿岸4県の関係自治体、民間団体、地域住民が座談会やワークショップ、現地調査を重ね、開通に至った。官民協働によって誕生した被災地を結ぶ導線。坂本さんはそこに、地域の未来を重ねた。
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旅行会社勤務時代は岩手を回るツアーを企画したこともあるが、沿岸部へのツアーはつくりづらかった。当時は交通アクセスも今よりも悪く、美しい景色やおいしい海産物があることを認識していたが、「ツアーでお金を払ってまで行く価値はあるのだろうか」という疑問があった。その認識を、みちのく潮風トレイルが一変させた。「世界中から人が来るんじゃないか」。大きな光が見えた。
地域にどんどん人が来る、そんな未来を現実にするため、一から地域について学んだ。「帰ってきたら、地元のみんなが声を掛けてくれて、いろんな人から話を聞くのが楽しくなった」と振り返る。あれだけ避けたがっていたつながりは、必要なものだったと感じた。
「昔の自分は、住んでいるのがいやだった地元だけど、子どもには『住みたくない』と感じさせたくなかった。来てよかったと思えるまちにしたい」。そんな思いを胸に、全線開通前から沿線各地域のワークショップに足を運んだ。
開通後も、トレイルの情報発信に加え、小学生とともに地元のおすすめスポットを掲載したマップを制作するなど、精力的に活動した。令和7年4月からは地域支部事務局として、県内外のエリアを管轄。地域住民やハイカーの声を聞き、ルートの維持・管理に反映させたり、自治体と連携した取り組みや地元の協力者の掘り起こしなどを行っている。
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被災地域で復興工事が進む最中、「震災を学ぶために来たけど、地域の方々に逆に元気をもらった」と話すハイカーは少なくなかったという。
「『被災地に足を運びたいけど、行ってもいいのかな』と思っている人もいたはず。だけど、みちのく潮風トレイルが開通したことは、被災地に寄り添いたいと考えている人たちが地域と関われるきっかけになった」。トレイルが、人と人、人と地域を結んだ。
復興の歩みを知るために、毎年訪れるハイカーもいる。地域との交流が続いている人もいる。歩く中で人と出会って、交流が生まれていく──。「つながりって素晴らしいもの。子どもたちにとっても誇れる地域になっていくはず」。坂本さんは改めて感じた。
「子どもたちが、外の人に自慢したくなるまちになったらいいなと思う。それを見つけるチャンスをつくることができるのは大人だと思うし、そうした大人になりたい」
今月1日に高校の卒業式を迎えた次男は大船渡市内の事業所への就職が決まっている。「子どもが『地元に就職したい』って言ってくれて、親としてもすごく喜ばしい」——。地域への誇りは、確かに伝わっている。
(清水辰彦)=3面に続く=






