大震災15年/History3.11 あの日から⑩ 陸前高田こども図書館「ちいさいおうち」 全ては子どもたちのために

▲ 開館直後からスタッフとして携わる高橋さん㊧と、子どもの頃にイベントを手伝っていた萌々華さん

 平成23年11月、東日本大震災による津波で市立図書館が被災した陸前高田市に、気仙初となる〝親子と児童・生徒のための図書館〟が誕生した。盛岡市のNPO法人・うれし野こども図書室(髙橋美知子理事長)の分館として、竹駒町内に整備された陸前高田こども図書館「ちいさいおうち」。安心して過ごせる居心地の良い図書館は、瞬く間に子どもたちの憩いの場となった。

 


 始まりは、震災後に気仙両市で読み聞かせ支援を行っていた髙橋理事長の「子どもたちがほっとできる場所を」という思いだった。図書館の設置を陸前高田市教委に申し出るなど、髙橋理事長はすぐさま開設に向けて奔走。バージニア・リー・バートンの絵本『ちいさいおうち』をほうふつとさせるトレーラーハウスは、復興支援団体等の助成や全国からの寄付を活用して用意した。
 親しみやすい外観とぬくもりあふれる内装。津波の爪痕が見えない安心感のある立地。そして、〝児童書のプロ〟である東京都の公益財団法人・東京子ども図書館が選定・寄贈した蔵書。利用する子どもたちのために、とことんこだわった図書館が完成した。開館当初から長い間ちいさいおうちの専任司書を務めた中井佳織さん(46)=大船渡市大船渡町=は、「髙橋理事長の強い思いと、その志を理解し協力した東京子ども図書館のおかげでできた場所。地元の力だけではなしえなかった」と振り返る。
 東京子ども図書館の研修に何度も参加し、発達に合わせた本の選び方や催しの進め方など、数多くのことを学んだ中井さん。「せっかく頂いたノウハウ。無駄にはできない」。専任司書として、ちいさいおうちでの活動に全てを注ぎ込んだ。
 特に大切にしてきたのが、一人一人に合わせて本を〝手渡す〟ことだった。今日は誰が来て、どんな本を読んでいたか。ささいなことも日誌に記録し、それをもとに蔵書の中からおすすめの一冊を「次はこんな本はどう?」と紹介した。
 ちいさいおうちでの日々は「とにかく楽しくて、幸せだった」。中井さんは現在、大船渡市立図書館の司書を務める。「今の自分があるのは、ちいさいおうちで過ごした時間があるから。あの時の経験が今に生きている」と穏やかに笑う。



 NPO法人・うれし野こども図書室の分館として始まったちいさいおうちは、平成30年に転機を迎えた。同法人の手を離れ、同年度から地域住民主体のボランティアによる運営へと体制が変化。その新体制の中心となったのが、開館直後から中井さんと〝両輪〟で携わってきた高橋更苗さん(64)=高田町=だ。
 「本が好きではあったけれど、司書でもない完全な素人。運営は中井さんにお任せして、楽しいことだけやっていた」という高橋さん。それでも引き継ごうと手を挙げたのは、「この場所を今のまま残したい」という一心からだった。
 新体制となってから、元々自由度が高かったイベントは、より一層バラエティー豊かになった。多くの子どもたちに楽しいひとときを提供するうち、精力的にイベントを手伝う〝小さな助っ人〟も現れた。
 竹駒町に住む木村萌々華さん(18)もそのうちの一人。母・文さん(48)がボランティアスタッフとして活動し始めたことをきっかけに、萌々華さんもイベントを手伝うようになった。「元々本が好きだったし、楽しそうだったから」。母からの〝助っ人依頼〟を二つ返事で引き受け、小学校の友達も引っ張り込んでイベントを支えた。中学校進学後は足を運ぶ頻度こそ少なくなったものの、受験勉強が忙しくなる前の中学2年生までイベントを手伝い続けた。当時を振り返り、「全部濃い思い出。いい経験をさせてもらった」と笑う。
 「本って、ちょっと読まないでいると〝読めなくなる〟。ちいさいおうちがあったから本に触れ続けることができて、ずっと変わらず本好きでいられた」。そう語る萌々華さんはこの春、山形県の短期大学に進学する。そこで司書の資格を取り、ゆくゆくは本に関わる仕事に就きたいと、将来を思い描いている。(新沼麻波)=7面に続く=