伝承者たちの15年/〝あの日〟から現在、未来へ vol.4 次世代に未来志向の防災教育を NPO法人おはなしころりん理事長江刺 由紀子さん(64)
令和8年4月23日付 7面
「知識を広めるのは、共感力」
東日本大震災から15年が過ぎ、この4月から中学生以下の子どもたち全員が震災後生まれとなった。〝あの日〟を知らない子どもたちが増える中、大船渡市のNPO法人おはなしころりんは、令和元年から児童・生徒向けに「防災ワークショップ」を開催。読書推進活動に関わる子どもたちに、「未来志向の防災教育を提供したい」という思いが形になったものだ。
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おはなしころりんは、大船渡市立図書館が開いた読み聞かせボランティア養成講座の受講者らにより、平成15年に任意団体として発足。市内各地で読み聞かせ活動などを行い、子どもの読書推進に力を入れてきた。
NPO法人化に向けて本腰を入れようとしていた23年、震災が発生。当時、江刺さんは法人化を進めようと仕事を辞めたばかり。盛町の自宅は被災を免れ、できることを探る中、団体活動で交流があった子どもたちが心配になった。
発災からちょうど2週間後、絵本数冊を手に大船渡中学校体育館の避難所を訪れた。子どもたちは「ころりんが来た」と声を上げながら、江刺さんを囲んだ。その時の様子から、「大人の不安定な気持ちを、子どもが受け止めていると分かった。そのときは読書じゃなく、子どもと楽しい気持ちを共有し、みんながつながっているという安心感が必要だった」と感じ、復興支援活動を始めるきっかけとなった。
その後、仲間と市内避難所を訪ねる「避難所巡回おはなし会」を行い、小学校が再開後の5月からは「子どもの友達になれる本を届けたい」と、盛岡市の3・11絵本プロジェクトいわての協力を得て移動こども図書館事業を始めた。
市内の小学校、子育て支援団体の活動場所、津波被害を受けた地域を2台の専用車両で巡回。本の貸し出しやおはなし会などを通じて交流も図り、被災地域では高齢者ら住民の見守りも兼ねた。
27年には盛町内に「おはなしサロン」を開設し、幅広い世代が集う場として定着。公営住宅や地域公民館でのコミュニティー支援にも取り組んできた。「いろいろやったけれども、全て心の復興を目指していたように思う」と江刺さん。仲間や市内外の支援者らと活動を進めながら、28年にはNPO法人化を果たし、30年度からは大船渡町のおおふなぽーとで管理補助なども担うようになった。
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復興支援活動を行いながらも、江刺さんには「震災後に生まれた子どもたちにできることは何か。未来志向の防災教育に携わりたい」との思いがあった。民間団体だからできる防災教育を目指し、兵庫県神戸市の阪神・淡路大震災記念「人と防災未来センター」を訪れるなどして、あり方を探った。
そうして形にしたのが、防災ワークショップだ。同センターの子ども向け防災ゲームを、許可を得て〝大船渡版〟として制作。神経衰弱ゲームで災害時に必要な物品を学ぶ「防災絵合わせ」、防災の知識に理解を深められる「防災すごろく」、避難所運営をテーマにした「防災パズル」を用意。このほか、紙芝居、新聞紙スリッパ作り、ポリ袋クッキングなど、子どもたちの年齢に応じたゲームや体験をメニュー化し、提供する。
令和7年度は、大船渡市内のこども園1カ所、小学校7校、中学校2校の計244人が参加。本年度も学校などの要望に応じて開いていく計画だ。
一般向けには、震災や防災などをテーマにした展示事業を実施。江刺さんは、「伝承するというよりも、展示を見た人が当時のことや、防災の必要性を思い出す機会になれば」と意図を語る。
伝承について「私たちは伝えたいと思って表現するが、思った通り伝わっているかは分からない。受け止める側が伝えた人に共感できるかどうかであり、伝える人が多ければ、共感する人が増える。伝承活動は誰かに任せてよしではなく、それぞれがそれぞれの言葉で、身近な、大事な人に伝えていくのが大切。防災の知識を広めるのは、共感力」との思いを持つ。
5年には認定NPO法人となって活動を進めてきたが、今春、大きな決断をした。活動資金の関係で、移動こども図書館事業を縮小し、おはなしサロンを閉鎖した。
江刺さんは、「震災から15年の今、活動を続ける難しさにも直面しているが、命を大事にする、相手を思いやるといった、時代が過ぎても変わらないものを守りたい。そのために、時流に沿って活動の取り組み方を変えていく」と話し、次世代に震災、防災を伝えていくためにも活動を続ける決意を胸にする。(三浦佳恵)






