「教訓伝える責任と重要度増した」 綾里に山林火災伝承施設を開業 ㈱山海畑の阿部さん 記憶の風化、再発防止へ決意
令和8年5月3日付 7面
昨年2月の大船渡市大規模林野火災で大きな被害を受けた三陸町綾里に4月30日、大船渡山林火災伝承施設「綾里ビジターセンター」がプレオープンした。平成以降で国内最大の延焼面積となった林野火災の記憶継承と防災・防火意識の高揚のほか、みちのく潮風トレイルをはじめとした地域ツーリズムの拠点としての活用を見据える。館長を務める㈱山海畑代表取締役の阿部正幸さん(43)=綾里在住=は、4月22日に発生し、5月2日に鎮圧された大槌町の山林火災の事例も踏まえ、「この施設が担う伝承の責任と重要度が増した。山林火災を自分ごととして捉えてもらえるよう、工夫しながら教訓を伝えていく」と気持ちを新たにする。(菅野弘大)
市大規模林野火災で被害を受けた綾里の漁業を中心に、ボランティアを受け入れるなどの支援活動を展開してきた阿部さん。研究者や専門家とのつながりも生かして山林火災に関する見識を深め、被災した山林などの現地案内やSNSでの情報発信を通じて、山林火災の脅威と防災・防火の教訓を伝え続けている。
伝承施設の開業は、被災した綾里に発信の拠点をつくることで、教訓の伝承と記憶の風化防止、山林火災被害の再発防止につなげようと計画したもの。クラウドファンディングで活動資金を募り、全国からの支援で目標金額も達成した。開業に向けて準備を進めていたさなか、大槌町で大規模な山林火災が発生した。
阿部さんにとって大槌町は、東日本大震災のボランティアとして活動した思い入れのあるまち。当時はNPO法人の一員として、中高生の学習支援などに当たった。今回の山林火災では、自身が1年半住んだ同町安渡地区にも避難指示が出された。
「大船渡の経験と教訓を役立ててほしい」との思いから、すぐさま投稿サイトなどで情報発信を始めた。火災鎮圧まで時間を要すること、急速な延焼拡大に伴う避難指示区域の広域化、事態長期化を見据えた支援など、大船渡の林野火災で得た知識や備えについて呼びかけ、現地の住民らにも多く読まれた。
4月24日には現地に入り、専門家とともに火災の状況をモニタリング。木がまるごと燃える「樹冠火」が発生する瞬間も目の当たりにし、「大船渡クラスの火災になる」と直感した。幸いにも、その後のまとまった降雨で事態は鎮静化に向かったが、住民の避難や交通規制の状況など、大船渡の火災とは異なる対応にも目を向け「どこまで大船渡の教訓を生かした避難指示や対応だったかは分からない。綾里のように、強風で激しい飛び火が起きていれば、もっと大きな被害になっていた。今後、これが正しかったかをしっかり検証してほしい」と訴える。
また、阿部さんは「今の大船渡の姿が、大槌の1年後になる」とも語る。経済や観光面での打撃に加え、大船渡でも復旧の取り組みが進められている焼けた山林の伐採、将来的な森林再生の問題など、「次の景色が先読みできてしまう分、大船渡を経験した人たちが相談に乗ってあげてほしい」と呼びかける。
「延焼のスピード感や樹冠火、WUI火災(林野と市街地の境界領域で発生する火災)といった、これまでの山林火災と違う部分を伝える重要度は増した。乾燥時期に火を取り扱うことの危険性、屋外で絶対に火を使ってはいけない日があることの認識を深めてもらう点は変わらない」と阿部さん。伝承施設では、大船渡の火災の被害状況や発生当日からのまち、住民の動き、気象条件、樹種を踏まえた延焼拡大のメカニズム、復興の取り組みのほか、大船渡と大槌の火災、対応状況の比較も取り入れた展示を予定する。
消防庁の統計によると、林野火災の出火原因の多くは、たき火や火入れなどの人的要因であるとされている。阿部さんは「山林火災は各地で頻発する。研究者、専門家から意見をもらいつつ、『あなたが火元になるかもしれない』という想像、『小さな火種から大きな火事になる』という実感を持ってもらえるような伝え方ができれば。山林火災の伝承という役割、責任が大きくなり、移動展示のように大船渡だけにとどまらない活動もやるべきかもしれない。研究者との議論や情報をアップデートしながら、伝承施設の館長として、何を伝えていくかを考えていきたい」と見据える。






