つなぐ、柔術の魅力 大船渡市出身の東川さん 高校生への指導も(別写真あり)
令和8年6月2日付 7面
日本からブラジルに伝わった柔道が独自の進化を遂げた「ブラジリアン柔術」が未経験者でも始めやすいと、近年、世界的に人気を集めている。大船渡市三陸町綾里出身で仙台市在住の東川瑛雄さん(38)も、スポーツとは無縁だった人生で30歳を過ぎてから柔術を始めて各種大会で好成績を残しており、火災で大きな被害を受けた故郷にも勇気を与えたいと競技に打ち込む。5月30日には、宮城県農業高校柔道部の生徒を対象に柔術指導も行い、高校生にも柔術の魅力を伝えた。(清水辰彦)
高校生の頃から格闘技観戦が好きだったという東川さん。7年ほど前から県内のジムに通っていたが、およそ3年前、大船渡市で暮らしながら仙台市のブラジリアン柔術道場「カルペディエム仙台」に通うようになり、一昨年、転職のタイミングで同市に転居した。
仕事後、連日道場を訪れ、仲間とともに技術向上に汗を流す。柔術歴は浅いが、持ち前の〝しつこさ〟を生かし、技術レベル、経験、そして熟練度を示す「帯色」は黒帯、茶帯に次ぐ紫帯にまで到達。これまでに北日本選手権での優勝、全日本マスター選手権での3位入賞など各種大会で好成績を収めてきた。
宮城県農業高校での指導は、同校柔道部の顧問を務めている吉田俊太郎さん(44)が道場の仲間だった縁から誘いを受けた。
吉田さんは「『厳しすぎる部活』か『何もしない帰宅部』の二極化が進んでいるように感じていた。その中で、柔術の寝技中心のスタイルは、初心者でも始めやすく、ケガのリスクも比較的少ない」といった考えから同部に柔術を導入。初心者や女子生徒も参加しやすくなったこともあり、部員も増加。本年度の新入部員はほとんどが柔道未経験者で、部の道着が足りなくなり、古着の提供を呼びかけているほどだという。
東川さんは指導の誘いに、「楽しく自由な発想で柔術を取り入れようとしたと聞いて、何か自分も力になれたら」と快諾した。
東川さん自身は初の指導となった30日、部員とともにスパーリングなどで体を動かし、これまでの稽古で身につけた技や体の動かし方、柔術の魅力を伝えた。指導を受けた菅原凌太朗さん(3年)は「柔術は、柔道とは動きが違う部分があっておもしろい。(東川さんは)力も強くて、こちらの動きも封じられてしまって、すごかったです」と話した。
初めて「指導者」という立場に携わった東川さん。「柔術の楽しさ自由さを知ってもらえたらうれしい」と汗をぬぐい、「もっとたくさんの人に柔術を知ってほしいし、カルペディエム仙台にも来てもらって、インストラクターたちの本物の柔術を体感してほしい」と、さらなる競技の広がりを期待する。
「やりきる力が身についたし、職業、年齢、性別、国籍問わずたくさんの人と出会えて、マットの上ではそれらが関係なくなる」と、柔術の魅力を語る東川さん。より柔術に打ち込むようになったっかけの一つは、昨年発生した大船渡市大規模林野火災だった。
「東日本大震災の時は関東に住んでいて、被災した地元のために何もできない自分に無力さを感じた。昨年の火災の時、ちょうど大きな大会を控えていたけれど、それを辞して綾里に向かおうかとも考えた」と振り返る。
「そんな時、綾里の友人たちからは『こっちは心配しなくていい。大会で優勝して、俺たちに元気をくれよ』と言葉をもらった。結果、その大会は3位で終わってしまったが、人を思う大切さを知った気がして……。日本一には届かなかったけれど、こんな自分でも積み重ねること、やりきることで誰かの励みになれたりするのかなとも思った」と、言葉に感情を込める。
「カルペディエム」は、ラテン語で「今を生きる」を意味する。スポーツとは縁のなかった人生だが、そんな自分でも誰かに勇気を与えられると信じて、今この瞬間に全力を尽くしていく。今後の目標は、来年行われる全日本マスター選手権での優勝だ。





