■視点/津波注意報・警報に伴う避難指示対象区域見直し㊤── 住民から不安や戸惑いの声も 地域社会全体の細やかな変化に対応を 震災15年3カ月

 大船渡市は、津波注意報・警報に伴う避難指示対象区域を見直し、今月から運用を始めた。これまでは、注意報でも最大クラスの津波浸水想定区域を対象に避難指示を出してきたが、見直し後は基本的に海岸堤防から海側のみが対象となる。市民生活や産業活動への影響が少なくなる半面、沿岸部の住民や事業者からは、不安や戸惑いの声も聞かれる。きょうで東日本大震災発生から15年3カ月。実情に合った安全確保ができるよう、市は地域社会全体の細やかな変化に対応する必要がある。(佐藤 壮)

 

 市は先月19日、ホームページで避難指示発令区域の変更を明らかにした。津波注意報は、海岸にある堤防などから海側の区域や岸壁、海岸付近に加え、盛川河川敷が対象。警報時も、海岸堤防より外側に位置する海側区域に加え、海岸堤防がない場所では県が公表した最大の津波浸水想定区域が対象となる。
 対象区域を表示した地区別の図面のうち、大船渡町の一部地域を抜粋したものが別掲。過去の津波浸水域をはじめ県が公表した最大クラスの津波襲来時における浸水想定区域(朱色)の大半が注意報・警報時は対象外となる。
 先月まで、注意報発令時には沿岸に暮らす住民6000人超を対象に避難指示が出ていた。今月からは市内全体でゼロになり、主に釣り人や養殖漁業者らが想定される。警報時も避難対象となる住民は、110人余と大幅に減少する。
 市は「国の避難に関するガイドラインに基づく内容との整合性を図った」と、見直しの理由を説明。さらに、震災以降、海岸沿いに防潮堤をはじめとした堤防施設や陸閘の自動閉鎖システムといったハード施設が整備され、確実に稼働している状況も踏まえた。
 先月22日に開かれた市の記者会見。渕上清市長は「海岸堤防の整備、水門や陸閘の整備など対策はとられてきた。潮位の計測なども精度は上がっている。実際にこれまで発令された時には、避難指示の範囲が広かった。避難による市民生活そのものへの影響が出ることが大きな課題ととらえている。見直しにより、ある程度生活への影響を抑えることができる」と話した。
 一方で「津波への意識が薄くなる傾向があってはならない」とも述べた。「避難訓練の重要性が増す」とし、「訓練に工夫をこらしながら、避難行動につなげられる実のあるものにしたい」との考えを示した。

 注意報の発令が日をまたぎ、長時間にわたり避難指示が続くこともあった。6000人に対して避難指示を出していた対応が、現実的ではなかった面はある。
 今回の区域変更は、地域社会全体が今後の避難行動や津波襲来への備え、防災のあり方を見つめ直す大きな契機になる。市内では「避難しなくてもよくなった」との声ばかりではない。
 沿岸部に位置する事業者は、見直し内容に対する是非以前に「もっと時間をかけて見直しをすべきでは」「沿岸部の事業者に説明したり、意見を聞く場があっても良かったのでは」と、不安や戸惑いを隠さない。
 15年3カ月前、過去の経験から「ここまでは来ない」とされてきた区域にも津波が押し寄せた。復旧・復興事業により、震災前を上回る高さの防潮堤が整備され、中心市街地は地盤のかさ上げも行われた。
 沿岸部の住民や事業所関係者は、注意報や警報発令時には避難行動をとるとともに、その場にいる来訪者らの安全確保にあたり、再び犠牲者を出さない防災のまちづくりを進めてきた。運用開始前の10日程度の周知で、不安や戸惑いが消えないのは当然といえる。
 地域社会に求められる変化や市民の心情に、行政をはじめ関係機関が丁寧に、時間をかけて向き合わなければいけない。不安や教訓を大切にし、区域にとらわれない行動やルールづくりも重視すべきだ。実情に合った避難行動の構築に向け、細やかな変化に対応できる体制が求められる。