画家時代の作品 再評価 広田町の阿部コウさん 美術誌に掲載、展示依頼も
令和8年6月20日付 7面
東日本大震災前まで画家として活動していた陸前高田市広田町の阿部コウさん(86)の作品が、再び注目されている。亡き夫が残した描きかけの絵を完成させようと60代で油絵を始めた阿部さんは才能を開花させ、国内の公募展で入選するなど活躍。震災を機に活動から遠ざかったものの、先月発行された美術雑誌で作品が紹介され、展示依頼も舞い込んでおり、阿部さんは「作品を描いたかいがあった」と再評価を喜んでいる。(三浦佳恵)
広田生まれの阿部さんは、昭和37年に1歳年上の民夫さんと結婚。その後、60歳を迎えて夫婦でゆったりとした時間を過ごそうと考えていた矢先の平成10年、民夫さんが急逝した。
大切な人を失い、何をしても涙が止まらなかったという阿部さん。心身ともに疲弊し、医師からは趣味を持つよう助言を受けた。
こうした中、民夫さんの遺品から描きかけのデッサンや画材が見つかった。阿部さんは残されたデッサンを仕上げようと思い立ち、11年から市民講座に通って油絵の基本を学んだ。
一つの作品に集中し、自らの感性を大切にしながら花や海、人物など描きたいものを求めて表現をしていくうち、創作活動は阿部さんの心のよりどころとなった。12年に描いた「玉子」が日本の自然を描く展で入選後は、ほぼ独学で技術を磨いて公募展にも挑戦。サロン・デ・ブラン展や一期会展などで入賞、入選を果たした。
意欲的に創作を続けていた中、震災が発生。高台の自宅は被災を免れたものの、めいや知人らが犠牲となり、「とても絵を描いてはいられない」と筆を折った。
その後もキャンバスに向かうことはなかったが、今年に入って一人の美術史家が阿部さんの作品に注目。先月発行の美術誌『花美術館』93号(蒼海出版)に、阿部さんの「鬼剣舞『鬼となりて舞い躍る』」「富嶽春秋」「椿」の3作品が掲載された。このうちの「椿」は、民夫さんが残したデッサンを阿部さんが完成させた、夫婦による共同作品となっている。
この掲載を機に、作品展示などの依頼も来ているといい、予想外の再評価に阿部さんは自作を見つめ、「絵を描いてきてよかったな、描いたかいがあったなと思う。当時の苦労を忘れるよう」とほほ笑む。そして、「これからは病気やけがをせず、無事に生きることを目標にしていきたい」と話している。





