津波で流出の浮輪 米国に漂着 アラスカ州無人島で発見 震災発生15年半 所有者・村上さん「信じられない」

▲ 「まさかアメリカに漂着するとは」。自宅に保管していた浮輪と同じものがアラスカ州で見つかり、驚きを隠せない村上さん夫妻

 東日本大震災の津波で流された大船渡市末崎町鶴巻の漁業・村上金夫さん(83)の漁船に乗せていた浮輪が、米国アラスカ州の無人島で発見された。地元の男性が海岸清掃を行った際に見つけたといい、浮輪に書かれていた文字を頼りに、大船渡市漁協などを通じて所有者を特定した。今月11日で震災発生から15年6カ月。長い時間をかけて太平洋を渡った浮輪は来月、村上さんの元に届けられる予定で、村上さんは「15年以上もたった中、信じられない。関係者の思いがただただありがたい」と感謝の念を募らせる。(高橋 信)

 

米国アラスカ州の無人島で発見された浮輪を手にするピッチャーさん(大船渡市漁協提供)

 浮輪(救命浮環)は村上さんが30代のころ、遊漁船免許を取得した際に購入したもの。直径約70㌢で、「岩手県大船渡市」「門ノ浜港 宝竜丸」と書かれている。一つは自宅敷地内の作業小屋に、もう一つは漁船に置いていた。
 その一つが遠くアラスカ州で見つかり、村上さんは「正直、浮輪の存在を忘れていた。まさかアメリカまで流されていたとは」と驚く。
 発見したのは、同州に住むドン・ピッチャーさん(73)。8月2日にアラスカ湾に位置するモンタギュー島で海岸清掃をしていた時に、丸太の上に置かれた浮輪を見つけた。
 浮輪に書かれた文字から「日本から流れ着いたものと考えた」といい、グーグルの翻訳機能を使って調べ、震災で被災した本県の港から流れてきた可能性があることが分かった。在アンカレジ領事事務所に相談し、職員のベッツ弘美さん(57)が大船渡市漁協などに連絡。村上さんの浮輪であることが判明した。
 村上さんは父から継いだワカメ養殖を中心に、妻・純子さん(76)との二人三脚で漁業を営んできた。震災の津波で漁船や養殖施設、加工設備の一式をすべて流され、自宅は1階天井まで水につかり、大規模半壊の被害を受けた。
 「残ったのは体だけ。財産と呼べるものは全部やられた」。漁船は陸前高田市広田町内で見つかったが、自身の年齢を考慮し、養殖を廃業した。
 あの日から15年半。忘れていた存在の浮輪が予想だにしない場所で見つかり、村上さんは「発見者をはじめ、関わってくれた方々の思いが何よりありがたい」と感謝し、純子さんは「海岸清掃の時にごみと一緒に処分してもいいはず。善意でわざわざこちらまで連絡してくれたのではないか」と思いを巡らす。
 浮輪は、10月にベッツさんが一時帰国する際に村上さんに届けられる予定。気仙では震災の津波で流出した陸前高田市の県立高田高校の実習船「かもめ」が約2年の漂流の末に、米カリフォルニア州クレセントシティ市の海岸に漂着し、現地の関係者の尽力で返却されたことを起点に、陸前高田、クレセントシティ両市が絆を深めているという国際交流の先進事例がある。
 ピッチャーさんは「浮輪を元の持ち主に返すのが一番いいと考えていた。来年には日本に旅行したいと思っており、その際には村上さんにごあいさつしたい」と話す。