「1スライス」から気軽に NYスタイルのピザ屋 大船渡町のPIZZA CREST 米国仕込みの本格派(別写真あり)

▲ 米国で本格的なNYスタイルピザを学んだ浅野さん

 大船渡市末崎町出身の浅野宗一郎さん(30)が今年3月、同市大船渡町に米国・ニューヨーク(NY)スタイルのピザ店「PIZZA CREST(ピッツァ・クレスト)」をオープンした。約2年間にわたり現地で修業した本格的な味わいのピザがひと切れから楽しめる店で、浅野さんは〝日常の中にピザがある風景〟を地元に定着させたいと、磨いた腕を振るう。(鈴木英里)

 

 カリッと香ばしく焼き上げられた生地に、濃厚なトマトソース。トッピングはチーズだけというシンプルさでも、満足感がある深い味わい……。薄手なのにさっくりクリスピーな歯応えのNYピザは、日本人になじみがあるもっちりしたナポリピザ(イタリアンスタイル)とは違う魅力を持つ。
 浅野さんがNYでピザと出合ったのは、NY市で開催されたストリートバスケの大会に出場するため初めて渡米した大学生の時。日本ではピザ屋のバイト経験もあったことから、NYで食べたものが、味も作り方も、食べられる頻度もまったく違うことへの驚きは一層大きかった。
 NYは米国でも特に「人種のるつぼ」という言葉を象徴する都市。そこにはいろんな国の食文化が集まり、融合していた。ピザもその一つ。バスケを筆頭とするストリートカルチャーに興味があった浅野さんだが、こうした独特のミックス文化がある面白さにもノックアウトされた。
 卒業後、一度は父の経営する企業に入社したが、「NYをもっと知りたい。ピザ作りを学びたい」という思いはやみがたく、令和5年秋に再渡米。語学学校に通いながらさまざまな店を食べ歩き、修業先を探した。
 最初は住居からほど近い店舗で約半年間、作り方などのノウハウを吸収。次にドアをたたいたのは、「教わるなら絶対にここ」と直感したほど味にほれ込んだ店だった。
 英語もほとんど話せない中、「学ばせてほしい」と頼み込んでも最初はけんもほろろに追い返されたが、なんとかオーナーと連絡先を交換し、メッセージを送った。返事は来なかったが、それでもへこたれず、〝あなたの店のピザのここが好きだ〟と自筆の手紙にアピール文を全力でしたためて手渡した。
 ついにオーナーも折れ、「熱意は分かった。取りあえず1枚、焼いてみろ」と、ほかの店員ら衆人環視の中でピザを作らされた。「スタッフも、〝ふ~ん〟〝まあ、悪くはないんじゃない?〟という空気だったけれど、スタートは切れた」と浅野さん。まずは皿洗いと、オーブンで焼き上げる係を任された。
 だが、当人は与えられた役割に黙って収まっているタイプではなかった。周囲を見てやり方を覚え、すいた時間になると隙を見て「それ俺にやらせて。作らせて」と自己主張した。 
 控えめにとか、わきまえて、なんて言っていたらいつまでも出番はない──バスケも仕事も同じだった。〝実力はあるぞ〟と少しずつ示す中でピザ担当を勝ち取り、ある晩、一度に20枚というビッグオーダーをこなしたことで認められた。スピードに加え、丁寧さも群を抜いていた浅野さん。店をやめる時は引き留められるまでになっていたが、「日本で理想の店を出す」という夢を実現させるため昨年帰国し、はじめの一歩はふるさとでの開業を選んだ。
 小麦粉、チーズ、ソースと、NYで繰り返し食べて覚えた味を基準に試作し、納得のいく味に近づけた。修業先でも一番人気だったトマトソースとミックスチーズだけの定番「クラシックニューヨーク」をはじめ、ホウレンソウのソースを使ったもの、日本人にとっても定番の「マルゲリータ」など、常時6種類を扱う。ほかの味が不定期で加わることもある。
 ホールでは3300~4200円(税込み)。直径50㌢と大きいが、薄手で軽やかな食べ応え。1スライスは500~650円と手ごろだ。事前予約も可能(℡080・1930・2121)で、客が詰まっていなければ店頭注文しても10分程度で焼きあがる。
 日本だと「ピザは家族や友人同士で食べるもの、家で食べるもの」というイメージが強いが、現地では忙しいニューヨーカーたちが1~2スライスを店頭で買ってパパッと食べるような、身近なフード。日本人がコンビニでおにぎりを買う感覚に近いという。浅野さんは「日常的にピザを楽しむというカルチャーを、大船渡で〝シェア〟できたら」と言い、新しい食文化の定着を目指す。
 店舗は大船渡町笹崎の「芋っテル」敷地内にあり、営業は木~日曜日の午前11時30分〜午後7時(ラストオーダー同6時30分)。定休は月~水曜日。ただし週末はイベント出店も多いため、事前に同店ホームページかインスタグラムで確認を。27日(日)は陸前高田市の高田松原運動公園第2駐車場で開催される「海辺のマルシェ」に出店する。