海渡った浮輪 本人に 所有者・村上さん感謝募らせ 津波で流出 米アラスカに漂着

▲ 震災で流された浮輪が届き、笑顔を見せる村上金夫さん㊥、純子さん㊨夫妻と、返還に協力したベッツさん㊧

 大船渡市末崎町の漁業・村上金夫さん(83)が、東日本大震災の際に漁船に乗せていた浮輪が13日、漂着先の北アメリカ大陸の米アラスカ州から本人のもとに届けられた。海岸清掃をしていた米国人男性が発見し、津波による流出品の可能性があることが分かり、大船渡市漁協などを通じて返却にこぎ着けた。震災発生から15年7カ月。本人でさえ流されたことを忘れていた浮輪は、東北沿岸を襲った震災を忘れずにいる発見者らの熱意で返され、村上さんは「ありがたいの一言」と感謝する。(高橋 信)

 

ドン・ピッチャーさん

 13日は返還に協力した在アンカレジ領事事務所職員のベッツ弘美さん(57)が、浮輪を持参して大船渡市を訪れた。市漁協の亘理榮好組合長らの案内で末崎町の門之浜漁港に向かい、村上さんと妻の純子さん(76)に浮輪を手渡した。
 浮輪はもともと片手で持てるほど軽いが、戻ってきたものはずっしりと重くなっていた。村上さん夫妻や市漁協職員らは「水を吸って、こんなに重くなったのだろうか」と時間の経過を感じ取っていた。
 浮輪は8月初旬、アラスカ州に住むドン・ピッチャーさん(73)が発見。アラスカ湾に位置するモンタギュー島で海岸清掃をしていた時に、丸太の上に置かれた状態で見つけた。直径約70㌢で「岩手県大船渡市」「門ノ浜港 宝竜丸」と書かれ、コケに覆われていた。ピッチャーさんは「日本から流れ着いたものではないかと思った」と振り返る。
 ピッチャーさんによると、モンタギュー島の東側にはアラスカやアジアからの大量の海洋ごみが流れ着き、ブイや漁具なども含まれるという。
 ピッチャーさんは東日本大震災で漁船などが流された被害を知っていた。「この浮輪も津波によって流されたものではないか」。グーグルの翻訳機能を使って調べ、震災で被災した本県の港から流れてきた可能性があることが分かり、在アンカレジ領事事務所に相談した。
 「なんとか本人に返せないか」。ピッチャーさんの思いを受け、ベッツさんが市漁協などに掛け合い、所有者を特定。連絡を取り合い、返還に至った。
 父から家業の漁業を継ぎ、純子さんとワカメ養殖をメインに営んできた村上さん。震災で漁船や養殖施設、加工設備の一式をすべて流され、門之浜漁港そばに構える自宅は1階天井まで水に漬かり、大規模半壊の被害を受けた。
 漁船は陸前高田市広田町内で見つかったが、自身の年齢を考慮してワカメ養殖は廃業。現在は直した家で、純子さんとゆっくり暮らしている。
 震災を忘れることはないが、漁船に乗せていた浮輪を気にとめた記憶はなかった。15年7カ月の歳月が経過した中、被災地を忘れずにいる関係者の思いに、村上さんは「発見しても、ごみと一緒にそのままにしてしまうような代物。それでもわざわざ届けてくれた。本当にありがたい。大事に保管したい」と感激していた。
 ベッツさんは「『なんとかならないか』というドンさんの熱い気持ちが始まりで、どうにか協力できないかと思った。届けられて本当に良かった。ドンさんも喜んでくれるに違いない」と笑みを浮かべた。