「考え、選ばせる」に高評価 キャッセンの防災体験 『あの日』グッドデザイン賞

▲ 「あの日」を体験する子どもたち(9月)=キャッセン大船渡

 大船渡市のキャッセンエリアプラットフォームが運営する「防災観光アドベンチャー『あの日』」が、本年度のグッドデザイン賞を受けた。スマートフォンから東日本大震災の経験を伝える音声が流れ、高台への迅速な避難といった「生きる知恵」を学ぶ仕組みで、学校単位での研修などで活用が広がる。関係者は受賞を喜ぶとともに、今後のさらなる防災への貢献に意欲を見せる。(佐藤 壮)

 

 同エリアを中心に体験できる「あの日」は、令和3年に公開し、翌年6月から本格運用を開始した。東北大学災害科学国際研究所の柴山明寛准教授が共同開発・監修を担う。昨年度までに3000人超が体験している。
 参加者がスマートフォンを手にしながら、キャッセン大船渡エリアに点在する35カ所のQRコードを読み取り、その情報から得られる被災当事者の音声体験談を聞くとともに、避難行動に関する問いかけに対して自らの判断を選択する。選択によって高台までの避難時間が変動するなどの仕掛けもあるが、全体としては約2時間の体験型プログラムとなっている。
 地元住民・事業者の経験を基にした「避難行動」に焦点を当て、音声などによる拡張現実(AR)を通じて、震災の疑似体験に没入できる。今回の受賞は、津波を経験していない世代や、被災地以外から訪れた人々が、被災した当事者の声や避難時のジレンマなどに触れることができ、自らの判断基準を問い直す防災意識改善の「サービスデザイン」が高い評価を得たことによるもの。
 被災者17人による音声体験談は方言を交えているほか、津波の切迫感を演出する音響によって、視覚情報だけでは得られない没入感や当事者性に迫る。また、スマートフォンの機種を問わず対応できるQRコードなどを採用することで、誰でも参加しやすい仕組みを構築。事前、事後の研修はキャッセン大船渡のスタッフが対面で行うことで、学んだ内容の理解促進や定着を支える。
 「あの日」は昨年、防災功労者内閣総理大臣表彰や防災まちづくり大賞総務大臣賞を受賞。「考え、選ばせる防災」の取り組みとして、地元では震災発生後に生まれた小中学生の体験機会が増えているほか、市外の団体が復旧・復興を学ぶ過程の一つとして採用する動きも広がる。
 グッドデザイン賞は本年度、県内所在企業では4件、県内プロジェクトでは2件受賞。受賞展は31日(土)~11月4日(水)に、受賞発表会は同日にいずれも都内で開催される。
 同賞への応募主体である㈱キャッセン大船渡では「15年前の経験を次の世代につなぎ命を守る取り組みをまち一体で進めている中で、大変励みになる。大船渡の皆さんを含めて東日本大震災当時の経験者の記憶があってこその受賞である。全国各地で災害が多発している。『考えて判断し行動する』という疑似体験を通し、備えに貢献したい」としている。