食用アワビ出荷再開 大規模林野火災で被災 綾里の養殖施設 〝生き残り〟ふるさと納税返礼品に(別写真あり)
令和8年10月31日付 1面
昨年2月の大船渡市大規模林野火災で被害を受けた同市三陸町綾里の元正榮北日本水産㈱(古川季宏社長)で30日、ふるさと納税返礼品として食用アワビの出荷が再開した。避難指示解除まで10日以上に及んだ停電の影響で、ほとんどの養殖アワビが斃死したが、数少ない生き残ったアワビを育て、発災から20カ月で食用の出荷再開にこぎ着けた。関係者は絶望からの確かな歩みを喜ぶとともに、被災前の規模を上回る事業成長を誓った。(佐藤 壮)
同社では、敷地内の養殖施設から今月水揚げし、町内の業者に冷凍加工を委託していた「スチーム冷凍あわび」の包装作業が行われた。6・5㌢以上に成長した殻付きアワビの冷凍品に加え、支援への感謝を伝える書面を入れた。
アワビは6個入りで、同市へのふるさと納税寄付1万円の返礼品として、この日は100セット余を送った。火災前からのリピーターに加え、復興支援の思いを込めた申し込みもみられたという。年末までに500セット程度を見込む。
作業を行った古川翔太専務取締役(30)は「火災から1年半が過ぎたこの時期に、ようやく個人向けの食用の出荷を再開できるのは感慨深い。陸上完全養殖で年中手に入るというのがこのブランドの強みだった。少量でも復活できるのはうれしい」と話した。
同社は、石浜地域に位置する漁港そばに、国内最大級のアワビの陸上養殖施設を構える。年間を通じて安定的に出荷できる養殖アワビは、市のふるさと納税でも主力返礼品の一つ。一昨年は3000万円規模に上り、昨年も5000万円を目標に体制強化を図っていた中、2月26日に大規模林野火災が発生した。
従業員全員が施設を離れたあと、停電によってポンプや水槽内に酸素を送る装置が動かなくなった。停電は10日以上続き、避難指示が解除された3月10日に関係者が戻ると、アワビの多くが死んでいた。被害額は5億円に上る。
その中で生き残っていたのは、採卵後の一昨年10月ごろから育てていたもの。水槽内の密度が低い状態だったため、酸素不足を免れたとみられる。
今年、返礼品として出荷するのは、生き残った中で特に大きく成長しているアワビ。成育環境は被災前と変わらず、肉厚で緑色に輝く食用アワビが復活した。年末までに出荷する返礼品の寄付は、現在も受け付けている。
2㌢程度の稚貝は今年5月以降、他の養殖施設に出荷しており、数量もすでに火災前の体制に戻った。食用の出荷は、この日が大規模林野火災以降初めてで、自社による販売をはじめ火災前と同じ規模に戻るのは、来年末を見込む。当初の想定よりも早いペースで、出荷の動きが進んでいるという。
同社は15年前の東日本大震災でも、甚大な被害を受けた。一方で、地中を浸透してきたプランクトンが豊富な地下海水を生かす施設体制は変えていない。ポンプで地下海水を引き、成分を調整せずに生かしており、津波、林野火災と二度の大災害でも変わらない綾里の恵まれた環境への評価が高まっている。
古川専務は「まずは個人、事業所向けともに、来年には出荷を完全復活させるのが第一。震災による被災の時は『元に戻ろう』というモチベーションでやってきた。火災を受けて『被災前以上に成長する』ことを目標に、この施設以外でもアワビをつくる体制も目指し、陸上養殖を牽引する存在になれれば」と今後を見据える。






