星新一の『声の網』
令和8年9月17日付
今月はSF作家・星新一の生誕100年に当たる。筆者にとっても思い入れのある作家の一人で、学生時代は星新一・小松左京・筒井康隆の「SF御三家」に傾倒し、古本屋に通っては文庫本を読みあさった。中でも、昭和45年発表の『声の網』は印象深い。
本作は、固定電話を通してネットワークに接続すると、ありとあらゆる情報を家にいながら知ることができるようになった未来が舞台だ。そして、陰ではコンピューターが人間を支配しているという要素も含んだ、一種のディストピア(反理想郷)小説とも読める。
これは、インターネットが発達し、ともすれば人間がAIに振り回されている現代の状況と似ているため、〝未来を予言したような作品〟として現在まで読み継がれている。発表当時は空想でも、時代が進めば現代とリンクするものが見えてくるのは、SFの醍醐味の一つだ。
ここで重要なのは、〝未来を予言した作品〟ではないということだ。そうした読み方をしてしまうと、「きっとこの場面も、現代のこの出来事を予言していたはずだ」と、解釈が暴走する可能性がある。行き過ぎると、あらゆる作品で拡大解釈を重ね、「この作品も、この事件や天災を予言していたに違いない」と、現実世界の見方までゆがみかねない。
創作物が大量に生み出されている今、多少なりとも未来の世界と似た発想が現れるのは必然とすら言える。創作物はあくまで創作物としてとらえ、現実世界の見え方まで侵食する事態は避けなければならない。そもそも、星氏が本当に『声の網』で未来を予言していたのなら、固定電話でなくスマートフォンにあたる道具が出てきてもいいはずだ。
星氏は、インターネットが普及し始めた平成9年に亡くなった。一方、SF御三家の中では筒井氏が唯一存命であり、ぜひとも未来の人間を驚かすような新作を読んでみたい。(齊)





