観光振興の根幹

 数年おきに読みたくなる本の一つに、有川浩さん著の「県庁おもてなし課」がある。高知県庁に実際に設置された同課を題材とした一冊で、都会とは言えない、「ない」ものづくしの地域において、地元民が気付けていなかった魅力を再発見し、見せ方・売り方を変えてブランディングしていく過程がおもしろい。
 最近読み返しながら、取材を担当している住田町を思い浮かべた。平野部が少ないため開発しづらいが、おかげで豊かな自然が保たれていること、ないものを書き連ねて嘆くのではなく、そこにあるものに光を当てようとする姿…それらが重なったのかもしれない。
 同町では現在、上有住にある滝観洞への来訪が好調だ。滝観洞観光センターがリニューアルオープンした効果もあるが、それ以上に大きな要因は、積極的な情報発信にある。快適に歩けるとは言いがたい洞窟だが、それを逆手にとって「冒険感」を打ち出し、アクティビティツーリズムを提供している。住田の観光の〝玄関口〟とも言える存在になっているが、一施設だけで観光振興を図るのは難しく、町内への回遊性も求められる。
 近年は世田米商店街に二つの飲食店がオープンして人気を集めており、今年4月末には世田米地内の施設で地元酪農家が手掛けるジェラートの販売も始まった。これらは住民たちが「愛する地域のために」という熱意を持って立ち上げたもので、いずれも住田の名物となる可能性を秘めており、町内を巡る〝ストーリー〟が生まれてきている。
 先述の小説の一節にこうある。「『見慣れたものだからつまらない』という考えはいけない」「地元に住むわれわれ自身が高知県を好きで、自慢をするようにならない限り、観光PRはうまくいかない。地元に誇りをもてずして、他人を惹きつけ、感動させることはできない」──。地域を見つめ直し、誇りを持つ。観光振興の根幹はそこにあるのかもしれない。(清)