育まれることを願う

 10日ほどの間に、同じ人物を違う内容で取材した。1回目は、主に高山帯に生息する野鳥・ホシガラスの気仙地域における最低標高での発見。2回目は、県の愛鳥週間ポスターコンクール小学校の部での最優秀賞受賞。もうお分かりだろう、大船渡小学校5年生の菅野彩月さんである。
 初対面の時、真っ先に視線が吸い寄せられたのは、びっしりと付箋が貼られ、ぼろぼろになるまで使い込まれた野鳥図鑑だった。その貫禄を見て、同席していた父・幸宏さんの〝お下がり〟だろうかと考えた。しかし、その考えは全くの見当違いで、菅野さんが小さい頃に買ってもらった一冊だという。
 ホシガラスについて話を振ると、一を聞けば十が返ってくる。それに圧倒されながら、目の前にいるのは単なる「小学生の女の子」ではなく、一人の「野鳥愛好家」だと認識を正した。
 菅野さんへの取材後、「気仙で一番低いところにホシガラスが現れた例ではないか」という知人の言葉を補強してもらう形で、陸前高田市立博物館の学芸員・浅川崇典さんにもお話を伺った。その際、「見つけたのは小学生の女の子で…」と言った途端、「もしかして5年生の子じゃないですか?」と思わぬ反応が。菅野さんのお名前を伝えると、「博物館の野鳥観察会によく参加してくれる子です」と語り、「すごい、すごい」とわが事のように喜んでいた。
 ある分野に興味を持って博物館などに足を運んでいた子どもが、長じてその分野に新発見という光をもたらす──。「ヨーロッパヒラガキ」が国内に定着していることを明らかにした寺本沙也加さん(同市出身)のことを、ふと思い出した。菅野さんは次なる〝芽〟かもしれない。記事を書きながら、そんなことを考えた。いつの日か、野鳥の権威となった菅野さんに、「この野鳥について見解を伺いたいのですが」と問い合わせたりするかも。そんな未来を夢想してしまう。(麻)