無常な世の中でも

 「行く川のながれは絶えずして…」の書き出しで有名な「方丈記」。鎌倉時代初期、鴨長明によって描かれ、日本三大随筆にも数えられている。
 実際に起こった大火事や地震、飢饉などを描写し、「無常観」の思想のもと、命、人生、人の世のはかなさ、不安定さなどを説き、「最古の災害文学」とも呼ばれる。
 その「養和の飢饉」のくだりに、こうある。
 「さりがたき女男など持ちたるものは、その思ひまさりて、心ざし深きはかならずさきだちて死しぬ。そのゆゑは、我が身をば次になして、男にもあれ女にもあれ、いたはしく思ふかたに、たまたま乞ひ得たる物を、まづゆづるによりてなり。されば父子あるものはさだまれる事にて、親ぞさきだちて死にける」
 夫婦ではより愛情深い方が、親子では親が、愛する人に食料を与えるために先だって命を落とすとつづられている。
 凄惨な描写だが、その中には極限状態にありながらも人を思いやる心の尊さを感じた。
 災害時や物不足の際、〝買い占め騒動〟がニュースで報じられる。一昨年夏の「米騒動」の時もそうだった。新型コロナウイルスが流行し始めた時も、根拠のないデマがSNSで拡散されたために、マスクや消毒液の転売と価格高騰が起きた。
 有事の際、次にいつ購入できるか分からない生活に必要な物資をたくさん買っておきたくなるのは、当然の心理かもしれないが、買い占めが連鎖してしまえば品不足は長期化し、 価格の高騰も止まらない。
 イラン情勢の緊迫化に伴う原油相場の急激な上昇で国内のガソリン価格が高騰している。事態長期化によるさらなる物価高騰や景気の減速への懸念も大きい。
 今後、デマの拡散による買い占めが発生しないとは限らない。有事の時こそ、冷静な消費行動と「分け合う気持ち」が必要だ。無常で、不確かな世の中でも、人が人を思う心は不変であると信じたい。(清)