令和8年10月11日付

 ノーベル化学賞に輝いた硤合憲三氏の記者会見で、「この研究にどんな応用が期待できるか」と質問された硤合氏が「不思議なんですが、皆さん物理学賞の研究にはそのような質問はされてないように思われる。化学賞の場合だけよく聞かれるのはなぜなのかな、と」と聞き返していたのが印象的だった▼少しも嫌味っぽくはなく、製薬への応用に関する具体例もきちんと挙げて回答していた。だが確かに。文学賞でも平和賞でもまず聞かない質問だ。〝それが一体なんの役に立つのですか?〟とは▼むろん記者としては一般にも分かるように伝えたい意図があって聞くのだが、私たちは無意識に「化学の研究は今すぐ人の役に立つべきもの」と考えているのだと気づかされる▼それだけに硤合氏の「意味があるからこうするんだとは考えたことがない。とにかく研究に、何かを知りたいということに興味があった」という言葉と少年のように輝く瞳に胸を打たれた▼0から1を発見する・生み出すこと自体が、誰の役に立つかなんてその時点では分からない。研究者はただ己の内に生じた疑問を追究するだけだ▼だが0から1を生み出す基礎研究なくして、応用も発展もありえない▼「役に立つから学問には価値がある」のではなく、「世界をより正確に理解できるようになる」こと自体が人類にとっての価値なのだ。