令和8年03月31日付

 先日、友人の引っ越しを手伝った▼最低限のものだけで暮らし、物を増やさないよう気をつけている人なので簡単に片付くかと思ったが、それでも詰めてみれば結構な大荷物だった▼「暮らすって物入りね」―映画『魔女の宅急便』の主人公が新生活を始めるに際してそうぼやくシーンがあるけれど、生活を営むって、1人でも本当におおごとなのだと実感した▼自分の場合、引っ越しの経験は多分それほど多くない▼最初は18歳で上京した時。そして約10年後に大船渡へ帰ってきた時。そこからわりとすぐ昔の小社だった建物へ移ったが、1年未満で被災。着の身着のまま実家に転がり込んだことを〝引っ越し〟に含めなければ…まあ、3回か▼その中で最も思い出深く、忘れ難いのはやはり、初めて1人暮らしを始めた時のことだ▼自分だけの皿、自分だけの本棚、自分だけの冷蔵庫と電子レンジ…何もかも自分のためだけにそろえてもらった興奮。同時に「暮らすって物入りね」と知り、親がかりで生きてきたことを初めて意識して、感謝したものだった▼1人暮らしは楽しさも寂しさもすべて自分のもの。苦い経験も失敗も、生きるかてになる―▼この季節の量販店に行くとよく出会う、単身生活を始めるらしき若者たちに対し心の中でそんなふうに余計なお世話を焼きながら、こっそりとエールを送っている。