令和7年12月28日付
陶製の杯を落とし、真っ二つに割ってしまった▼量産品ならあきらめるが、その杯は違う。友人3人と金沢を旅行した時、生年のえと(ひつじ)が描かれているということで、おそろいにして買ったものだった▼同級生だからえとが同じで不思議はないのだけれど、全員、母親もひつじ年生まれという巡り合わせがあり、あのフワフワした生き物に対するわれわれの思い入れもなんとなく強いのである▼改めて壊れた箇所を点検すると、飲み口に欠けもある。でも割れ方はきれいだ。なら「金継ぎ」にしよう―そう思い立った▼陶磁器の破損部分を漆で修繕し、金粉で仕上げる伝統技法だ▼どこかの工房に送ってプロに直してもらうことも考えたが、高級品でもなし、自分で挑戦してみることに。運よく、漆の代わりに合成樹脂を使う初心者キットも見つけた▼普段は手芸の一つもせず、ボタン付けすら〝雰囲気でごまかす〟ほどの不器用であるから、まあ、仕上がりはご想像にお任せする。我ながら笑える出来だった▼が、友人の顔を思い浮かべながら直す時間は楽しく、完成後はますます愛着が増して何度も眺めている▼単に直すというだけでなく、修繕部分さえ〝新しいデザイン〟として愛する。そして持ち主のストーリーとともに器を大切に使い継いでいくという金継ぎの魅力を、手を動かすことで理解できた。





