令和8年06月06日付

 取り返しのつかないことをしてしまったのは、巨人・阿部元監督の長女でも、児童相談所でも、AIでもない。彼を失脚させたのは彼自身の暴力である▼だが会見で長女が書いたとされる手紙が読み上げられたことで、「通報は大げさだった」「思慮の足りない娘だ」と長女への二次加害まで生んでいる▼暴行容疑で現行犯逮捕され本人も容疑を認めている。他人相手なら公然と非難されるだろうに、親と子になった途端、しつけとか家庭の問題という言葉で矮小化されていないか▼だが「親はしつけのために子を懲戒できる」という懲戒権の規定は、4年前に民法から削除された。しつけを口実とした暴力が、子の精神と肉体を損ねる事件はそれほど多い▼子の命が奪われるたび、「児童相談所は何をしていた」と声が上がる。なのに、被害者が死亡せず大けがもしていなければ「なぜ大ごとにした」と責めるのでは、児相も子どもも萎縮させる▼千葉で10歳の女児を虐待死させた父親は、娘に「お父さんにたたかれたというのはうそ」といった内容の手紙を書かせ、児相を遠ざけていた▼家庭という閉鎖空間の出来事は他人では分からないからこそ、たとえ本当に何もなくても、大げさに思われても、いったん第三者の介入が必要なのだ。今回の件で、DV被害者が相談しにくくなるようなことはあってはならない。