令和8年06月09日付

 懐かしさに、思わず目を細めた。7日付の本紙に掲載された「20年前のきょう」は、大船渡町鷹頭にあった山小屋・寿限無亭の完成を伝える記事だった▼旧・大船渡中第11回生たちが還暦祝いをきっかけに力を結集させ、数年がかりで手造りしたログハウス。大船渡湾を眼下に望むその景観は「市内随一」と言っても異論はなかったろう。完全に私設の空間でありながら広く市民にも開放され、たちまち〝観光名所〟となった▼虫の声と鳥のさえずりを聞きながら、木陰のハンモックに寝そべり、足踏みオルガンを弾いて歌う─誰もが童心に帰れる遊び心満載の工夫があちこちに仕掛けられ、訪れる人たちに軒並み「こんなところで暮らしたい」と言わしめた。〝大船渡の迎賓館〟という二つ名もだてではなかった▼建造に関わった同級生メンバーの中に、両親もいた。当時の私はまだ東京で暮らしていたが、実家に電話すると母も父も山小屋の話ばかりしていた▼年を重ねても何かに打ち込めること、気の置けない仲間と和気あいあい過ごす時間のあることが、人にこれほど張り合いを持たせるのかと思ったものだ▼6年前に同亭が焼け落ちた際の創設メンバーの喪失感は想像もつかないが、60歳を過ぎてから皆で一つのことをなしとげた事実は不動だ。今も「年を取った時、かくありたい」というお手本である。