令和7年11月22日付

 上野の東京国立博物館(東博)は、収蔵・展示品のすばらしさもさることながら、建築自体が一つの芸術である▼その東博が、本館正面に広がる既存の池を廃止して芝生エリアに改修し、コンサートやビアガーデン等のイベント広場にする計画を発表した▼この池は本館の帝冠様式建築と併せて設計されたもので、そこに映る建物(リフレクション)まで含めて歴史的景観を築いている。当然、計画には大きな反対の声が上がった▼広告代理店かコンサルタントか、どんな素人が入れ知恵したか知らないが、人々が東博に求めるものを一つも理解していない。格調と伝統、静寂―日本の美が詰まった空間を喧噪で破壊するなどはき違えている―と▼この国の公共施設に対する考え方は近年、異常に即物的だ。〝金になる○○〟といった言葉がもてはやされ、図書館や美術館などのコンセプトをどんどん拝金主義に変えてしまっている▼電気代高騰で、東博が「このままでは収蔵品を守れない」と訴えた時、国民からは多額の寄付が寄せられた▼わが国最高峰の知の宝庫を守らねばという人々の思いはそれほど強い。そこでなされるべきは、音楽鑑賞や飲酒であるはずがない▼それにしても「国立」施設がマネタイズに走らねばならないほど困窮しているというのに、国がなんら手だてしないというのがどうにも情けない。