令和7年12月18日付

 クマによる人身被害が過去最悪となる中、「ヒグマの血を持つ巨大なツキノワグマが誕生している」という話が、週刊誌やネットでまことしやかに語られることがある▼結論から言うと、それはデマである▼北海道にのみ生息するヒグマは、本州にいるツキノワグマと比べて体長が約2倍にもなることがあり、当然、襲われた時の被害も桁違いだ▼ヒグマの獣害としては、「三毛別羆事件」と呼ばれる日本史上最悪の惨劇が有名である。7人が食い殺された事件で、もしもヒグマが人を襲う意思を持って近づいてきたら、まず助からないと思い知る▼しかし本州にいてその懸念を持つ必要はない。ヒグマとツキノワグマが決して交配しないことは、これまでの研究で結論が出ている▼縄文時代までは本州にもヒグマがいたといい、ツキノワグマの生息地とも重なっていた。だがツキノワグマの中に、ヒグマ由来の遺伝子はただの1個体も確認されていない▼およそ500万年前、数百世代までさかのぼれる精密な遺伝子解析をしても、交雑は一度も起きておらず、実験の結果でも子孫はつくれないと分かっているのだ▼体が大きい・見た目がヒグマっぽいといったツキノワグマの個体差は、交雑ではなく種内の自然なバリエーションだ。こうした主観以外に〝ハイブリッド種〟が生まれうる科学的根拠は存在しないのだ。