令和8年08月18日付
月遅れ盆の終わり、夕方の蝉時雨が降り注ぐ中に、マツムシやスズムシの声が重なるのを聞いた▼盆を過ぎれば気仙はもう秋─と先日書いたばかりだったが、前言にたがわず。虫たちの声は早くもヒグラシを圧倒しつつあり、庭先にこぼれたツユクサの青は、まもなく来る季節の空色を先取っていた▼『だるまちゃんとてんぐちゃん』『からすのパンやさん』など、今も愛される名作を残したかこさとしさんにも、『秋』と題する絵本がある。戦争体験に基づき、平和への願いを込めて書き残した一冊だ▼かこさんは東大出の工学博士。だが「自分が世間知らずで不勉強だったばっかりに軍国主義に疑問を持てず、仲間を大勢死なせるはめになった」と悔やみ、「子どもに物事を正しく判断するための知恵を伝える手助けがしたい」と、絵本作家を志した人であった▼〈翌年、日本は負けて戦争は終わりました。それからくる年ごと、さまざまな秋がめぐってきました。つらかったり、さみしかったり、くやしかったり、切なかったりしましたが、ただひとつ、戦争のない秋の美しさが続きました〉─『秋』の最後の部分だ▼小菊などの草花やうろこ雲が広がる空─穏やかな初秋の風景を描いた同書の挿絵は、胸が詰まるほど美しい。「戦争のない秋」がどんなに失い難いものであるか、かこさんの作品に教えられる。






