令和8年08月15日付
仏の社会心理学者ル・ボンの『群衆心理』に、「用語を巧みに選択しさえすれば、最もいまわしいものでも受け入れさせることができる」という記述がある▼これにならったヒトラーは、戦争準備を「平和の確保」と言い換えた。〝平和のために軍備を整えねばならず、民を生活苦から救うにはユダヤ人を排斥せばならぬ〟と。そして圧倒的支持を得た▼現代でも為政者は同じ手法を使い続けている。イスラエルはイランへの攻撃を「核保有の阻止/差し迫った脅威の排除」とし、米国は「平和確立の手段」と言い換えた。彼らは宣戦布告なしの攻撃を「作戦」と、虐殺を「無力化」と呼ぶ▼わが国もたった81年で前回の反省を忘れ、同じ手法にまた手を出してはいまいか▼政府は今春、殺傷能力がある武器の輸出を全面解禁した。だが武器輸出という表現は使わず「防衛装備品移転」と婉曲に言う▼軍拡は「積極的平和主義」になるし、海外派兵は「平和維持活動」。特高警察や治安維持法、戦時緊急措置法などを彷彿させる法律は「インテリジェンス」「国会機能維持」といった忌避感の薄い言葉に置き換えて持ち出してくる▼戦争は常に「自衛・平和」という用語を選んで始められてきた。だからこそ為政者の使う言葉は注意深く見極めねばならない。言葉の頽廃を見過ごしていると、終末まではあっという間だ。





